手塚治虫の生涯を小説化したもの。どのような環境で育ち、どのような経緯でプロの漫画家となり、どのように売れっ子になり、そしてどのようになくなっていったかを多くの人の証言をもとに構成している。特に父親との関係はあまり従来描かれたことのない部分ではあるので(手塚治虫の事務所で働くようになったなど)、そこらあたりは興味深い。
ただ、作者の場合、これまでの著書もそうであるが、ノンフィクションであるような小説であるようなあいまいな書き方をしているところや、取材源がかたよっていても特にそれを気にせず書き進めていったり、対象とする人物に対する作者ならではの視点というものが見えにくかったりする点、対象が手塚治虫という大きな人物であるだけに、どうも従来の手塚像をなぞったものになってしまっているという難点がある。
とはいえ、かなり幅広く取材している上に漫画家を離れた手塚治(本名)という人物を描こうとしているなど、ジャーナリストであった作者ならではの手法が生きている部分も多い。
手塚治虫という人物について予備知識のない読者には十分その生涯を伝えることはできると思うし、それ以上に手塚治虫をとりまく人々の多彩さを知るには格好の作品といえるだろう。
(2002年5月24日読了)