読書感想文


一神教の誕生
加藤隆著
講談社現代新書
2002年5月20日第1刷
定価720円

 私は常々「なぜキリスト教は西洋に定着し、その価値観の根拠となったのだろう?」と考えていた。神話伝説その他もろもろ世界は神に満ちている。原始宗教はたいていは多神教であり、それが発展して現在に至るものは多い。一神教という形態の方が珍しいといえるかもしれないのだ。
 本書は、ユダヤ教の起こりからイエスの分派、そして原始キリスト教団の定着の過程をたどり、なぜこのような一神教が誕生したのかを考察する。ユダヤ人がモーゼのもとでエジプトを脱出した時にその心の支えとして定着した神がヤーベであり、彼らの守り神であったはずのヤーベが彼らを守り切れずに再び流浪の民とした時、その神は律法として彼らと契約関係を結んだ絶対神となった。それは極めて狭い範囲の神でしかなかったが、イエスが律法と神殿を拒否した時、儀式から離れた観念的な神が、民族を超えた唯一神が成立したというわけだ。そして、キリスト教が布教という方法をとる特殊な形態の宗教であったがために、イエスの死後も教団は共同生活を続け、さらに教会という場所が必要になっていく。
 本書は実にていねいにその過程をたどり、ユダヤ教をもとに作られたキリスト教の特質を明らかにしていく。そういう点では、異教徒である私がキリスト教を理解するのに非常にありがたいものである。
 が、紙数の関係からか、キリスト教が普遍的な宗教になっていく過程にまでは踏みこんでいない。著者にはぜひこのあとキリスト教がなぜローマ帝国に採用されたかなどの過程を続けてたどってほしいものだ。そうすれば、冒頭に書いた私の疑問もより明確に解答が示されることになるだろう。

(2002年5月26日読了)


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