読書感想文


傀儡后
牧野修著
ハヤカワSFシリーズJコレクション
2002年4月30日第1刷
定価1700円

 大阪の北部に隕石が落ち、それを調査に行った者は誰一人としてかえってこなかった。そこは立ち入り禁止指定地区となり、そして、そこを中心にして麗腐病という奇病が発生する。麗腐病にかかった者はみな行方不明となってしまう。町にはコミュという通信装置をつけた少年たちや性倒錯者がそれぞれの形で生きている。高校生にして天才デザイナーである七道桂男は、ネイキッド・スキンという貼る麻薬を所持し、彼に憧れる下級生のコミュ、函崎に接触する。函崎の友人である三嶋が謎の失踪を遂げる。一方、私立探偵の涼木は、社会を影で動かすHEグループの指導者、蓮元と夷の依頼で麗腐病の発生源を探っていた。指定地区から唯一脱出できたという経歴を持つ涼木は、麗腐病の発生に関係があると思われる玩具会社に乗りこむが、そこで意外な人物に出会う。その名を傀儡后……。傀儡后と麗腐病の関係は、そして隕石墜落地点にたどりついた涼木の見たものは……。
 第二の皮膚が人間を包みこむエロス、戯画化された陰謀と欲望、そして倒錯。作者が形作ってきたガジェットが最初はあちこちにちりばめられ、絡み合い、やがて収斂し、そして解放される。それは悪ふざけにも似た悪戯か。生命というものの持つ究極のエロスを作者独自の手法で描いた本書は、その魅力的な猥雑さで読み手を翻弄し、そして魅了する。
 結末近くで一気呵成に進められるカタルシスのスケールの大きさには唖然とさせられるが、それはばかばかさをともなった大きさで、実は私はこれに似たアイデアの作品を書こうとしたことがあるのだが、そのばかばかしいまでのアイデアをうまく展開させることができなかった。だから、本書を読み終えた時、作者の手腕のすごさに感服もし、脱帽もしたのである。
 本書は作者の集大成である。そして傑作である。それ以上の語彙は私にはない。もちろんお薦めの一冊である。

(2002年5月31日読了)


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