読書感想文


星野仙一「戦い」の方程式
永谷脩著
三笠書房王様文庫
2002年6月30日第1刷
定価495円

 星野仙一がタイガースとなってチームは変わった。その理由を、密着取材で定評のあるスポーツライターの著者が分析する。
 これまでの著者の実績から、私は凡百の「星野監督」本とは違うものであることを期待した。しかし、それはあっさりと裏切られてしまった。というか、ここのところイチローに密着取材していた著者が最近のタイガースを取材している時間があったはずがないのだということを失念していたというべきか。
 著者らしいきめの細かなエピソードはいずれも星野さんがドラゴンズ監督時代のものばかり。あとはスポーツ紙や野球専門誌で紹介されたものと大差ない内容で、しかも同じことが章が変わっても何度も出てくる。著者らしからぬミスもある。
「阪神が優勝した八五年は、四番バースが打ちまくった年であった」。
 別にあげ足を取ろうというわけではない。ふだんの著者ならこのようなミスは決して犯すまいと感じたのである。
 本書の帯には「緊急書き下ろし!」とある。つまり、出版社は今だから売れる企画をということで本書を刊行したに違いない。そして、著者は依頼を受けて急いで資料をかき集めて原稿を書いたのだろう。
 できれば、この著者にはこういうやっつけ仕事のような原稿は書いてほしくなかった。なぜならば、数少ない信頼できるスポーツライターの一人だからである。また、出版社もこのような企画に著者のようなタイプのライターを起用すべきではなかったのだ。これならば、近藤唯之のような過去のエピソードをつなげて現在をドラマチックに演出するようなタイプのライターの書いたものの方が面白くできあがるだろう。
 できれば著者にはこの1年星野監督をしっかりと密着取材して、作者らしいルポを秋に出版してほしいものである。

※この年のタイガースの4番打者は一貫して掛布雅之三塁手であった。ランディ・バース一塁手は常に3番を打っていたのである。あのバックスクリーン3連発が「バース・掛布・岡田」の順であることを想起してほしい。3番バース・4番掛布・5番岡田のクリーンアップトリオを、吉田監督はシーズンを通じて動かさなかったのだ。

(2002年6月2日読了)


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