読書感想文


ローマ人の物語1
ローマは一日にして成らず[上]
塩野七生著
新潮文庫
2002年6月1日第1刷
定価400円

 西欧史をわかりやすい読み物として書き続けてきた著者が満を持して取り組んだ塩野版『ローマ帝国興亡史』の待望の文庫化である。
 本巻ではローマに人が住み着いた経緯をまずたどり、そしてローマ以前に地中海世界を征していたギリシアの状況を展開する。
 著者は、ローマの立地条件が必ずしも最高のものではなかったことをふまえ、その地形をうまく生かして少しずつ強国となっていった理由を探ろうとする。それは、征服地の住民をも市民としてとりこんでいった融和政策と、理想よりも実際的な方法をとるローマ人の性格がプラスに働いたからなのだという。
 ギリシアの民主政を視察に訪れながらもそれを決して模倣することなく、時間をかけてじっくりと自分たちに最適な方法を模索していったローマ人たち。その長い歴史はまだ始まったばかりだ。
 読みやすく、かつわかりやすいこのシリーズが、まるでローマ人がそうであったように10年という長い時間を費やして完結にもっていったその成果を、文庫という形態で私たちは読むことができる。刊行ペースは単行本よりもいくぶん早くなるようだが、それでもあまり性急に全巻を刊行するようなことはしないようである。読む側もじっくりとつきあいたいシリーズなのである。

(2002年6月4日読了)


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