舞台は室町時代後半。管領細川勝元の美しき愛妾、地獄太夫と、若き能役者、鷹矢との関わりを軸にして、勝元や八代将軍足利義政、その正室日野富子などの人物が地獄太夫のしかけた罠にはまっていく様子を描く。地獄太夫は自分の運命を変えていった権力者たちに対する恨みから、讃岐の天狗に贄を差し出しその力を借りて幕府を、そして都を混沌に陥れようと画策する。しかし、それに気付いた鷹矢は、地獄太夫の目論見を阻止しようと後を追う。地獄太夫の計画は成功するのか。
応仁の乱直前の室町時代という秩序が乱れる一歩手前でかろうじて踏みとどまっている時期をうまくとらえ、様々な人物の動きをていねいに描きわけながら、ぐいぐいと読者を引っぱっていく。特に地獄太夫の妖しさは、ページが進むにつれてその魅力を増していく。こういった小説の場合、主人公の魅力に負う部分が多いだけに、この地獄太夫の存在感が本書を成功にもっていったといえるだろう。
反面、もう一人の主人公の鷹矢にはそれほど惹きつけられなかった。もう少しキャラクターに影があったら、その魅力を地獄太夫と張り合うところまでいっただろうに。
題材などから、赤江瀑の影響を感じさせるが、あそこまで耽美的な狂気をはらんではいない。これは作家の資質によるものであって、もとも作者の描く男性は健康的な雰囲気をただよわせているように思う。そこらあたり、必ずしも作者の特質を示した作品というわけではないだろうが、骨格のしっかりした時代伝奇小説としての面白さはきっちりと押さえている。
本書は一応完結しているけれど、続編も書けるような構成になっている。主人公たちの運命が応仁の乱でどう変わっていくのか、続きを読みたい。というか、続きのことは考えずに本書できっちりと最後まで描ききってほしかったというのが偽らざる思いではある。
(2002年6月8日読了)