本書は、「大日本帝国憲法」が制定された経緯を丹念にたどり、その草案を書いた伊藤博文や井上毅らが意図していたものが立憲君主制であったことを明らかにし、これまでの「明治憲法=悪」というイメージを覆そうとしたものである。
明治憲法は運用次第でどうにでもなるものであったからこそ、軍部の台頭もあったのであり、著者はその軍部の台頭に対する批判をし、憲法外にある「元老院」の力の低下がその台頭を招いたのだとする。それは確かにそうだろう。その点では、明治憲法を悪法呼ばわりすることは確かにないのだろうと思う。が、そういった事態を予測し得ず、軍部の暴走を合憲と解釈し得る憲法が著者の述べるような立派な憲法であったとは、私には首肯し難いのである。
また、憲法制定の過程で、伊藤たちがヨーロッパの憲法の引き写しでなく「天皇」を中心とした日本の伝統を基礎においたものを作ろうとした点を著者は高く評価している。憲法というものはその国ごとに、その国の歴史を踏まえて作られるべきだというドイツの憲法学者シュタインの意見を伊藤たちが取り入れているのだという。このくだりで私が疑問に感じたのは、明治政府がそれまでの江戸幕府の政治形態を完全に否定しようとしていたことに言及していないところである。日本の伝統というのなら、その当時の文化や考え方は260年続いた江戸時代に形成されたもので、それを無視することはできなかったはずである。にもかかわらず、天皇を日本の歴史の根本に置いたということは、明治維新で討幕運動をする際に大義名分が必要だったため天皇をかつぎ出したという事実があるからであろう。それを全く無視して論をすすめることに私自身は賛同できない。視野の狭さを感じてしまう。
もっとも、明治憲法に関する成立過程の解説や当時の人々の考え方を豊富な資料で提示しているという点では、本書はすぐれた憲法の解説書であると思う。日本の近代史を考える材料として、本書はよくまとまった参考書となるだろう。
(2002年6月14日読了)