読書感想文


歩兵型戦闘車両ダブルオー
坂本康宏著
徳間書店
2002年6月30日第1刷
定価1800円

 第3回日本SF新人賞佳作入選作。
 印刷会社をクビになった上に彼女と別れたばかりの失意の若者、雨月蛍太郎。シューティングゲームばかりして暮らしているフリーターの妹尾環。土建会社の腕利きのオペレーターながら不慮の事故で事故を起こし再就職もままならぬ胡子竜二。彼ら三人はいかつい大男にスカウトされ、環境庁に就職する。彼らに課せられた仕事は、なんと合体ロボット「歩兵型戦闘車両ダブルオー」を乗りこなす訓練であった。ダイオキシンを食べる生物が変化して怪物となったDDは、人間の思念を取りこんで巨大化し、町を破壊する。自衛隊との縄張り争いや、戦いによって破壊された損害からいわれなき怨嗟の声を浴びる三人。それでも彼らは戦い続ける。誰のために?何のために?
 合体ロボットが活躍する小説を書きたいという作者の思いが結実し、本書は生まれたとあとがきにある。まさに、ロボットアニメへのオマージュという他はない。主人公たちが巨大ロボットに乗りこむようになったいきさつや、そんな巨大ロボットが作られた理由などに作者の工夫が見られる。本来ならヒーローであるはずの主人公たちはそれぞれ何か欠落したものがあり、それを埋めるように戦う。そのストーリーは決して新鮮味があるものとはいえないが、読み手をぐいぐいと引きつける力強さがある。
 作者の思いがこの小説に力を与えたと、そういえるだろう。ということは、次作にもこれに匹敵する思いいれの強いテーマをもってこられるか、それが作者に与えられた課題だろうと思う。どこまでこのテンションを維持できるかによって、作者の評価も定まってくると思う。
 それはともかく、こと本書に限っては作者の思い入れがプラスに働いたといっていいだろう。面白く、そして少しほろりとさせる、いい意味での浪花節の魅力がここにはある。そういう意味では、この作者もまたSFにとどまらない大衆エンターテインメント作家になれる可能性を秘めているのである。

(2002年6月26日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る