修の友人の裕一は死んで荼毘にふされた時、その骨ひとつ残さず消えてしまったことを不審に思っていた。そして、ある日裕一の名を名乗る浮浪者の老人が訪れる。彼は古墳で手にした謎の古銭の呪を受け、老人の体に自分の心を移しかえられたのだと言い張る。修は古銭を持ってコイン商を訪ねる。その古銭について関心を持った若いコイン商佐伯は、この銭のふちに刻まれた二匹の蛇がたがいの尻尾を食べあっているデザインに着目する。伝説や故物に造詣の深い佐伯は、この古銭と、そして古墳のある神社に祀られている八百比丘尼とのかんれん、そしてやはり不死の存在である常陸坊海尊の伝説との関連を語り始める。そして、修の前に現れたのは裕一の姿を持った別の存在……。修や佐伯もまた古銭に呪われているのだろうか。その呪をとくために彼らは不死伝説の謎をとく旅を始める……。
伝説や呪に対する深い知識は作者ならではのものだが、本書で注目したいのは、呪など信じていないはずの主人公がひたひたと忍び寄る呪に対しておびえ、それを否定しつつもひきこまれていく、その描写である。人知のおよばないものに対する畏敬の念を忘れた現代人が、真の闇の中で根源的な恐怖を抱くという感じだろうか。
ラスト近くのクライマックスの迫力には息を呑むばかり。伝奇ホラーの傑作が、またひとつ生まれた。1作ごとに作品世界が深まっていく。作者はいったいどこまでいこうとしているのだろうか。凄みすら感じるのである。
(2002年7月2日読了)