読書感想文


ニングルの森
倉本聰著
集英社
2002年7月10日第1刷
定価1400円

 北の大地の奥の森にニングルという生き物が住んでいる。ニングルは、森の木と命を共有している。だから、木が枯れたり切られたりしたら、ニングルもまた死んでしまうが、森が元気だと、ニングルも生き続ける。その森に、人間というおかしな生き物がやってくる。人間は森を切り払い、山の獣を殺し、お金というものを大切にする。そんな人間の行動は、ニングルには理解できない。ニングルたちは考える。人間という不思議な生き物のことを。
 作者らしい文明批評の書である。ニングルという自然の中に生きる生き物を創造し、その生き物の目から見た人間の愚かさをメルヘンとして描いている。ここにこめられたメッセージは、作者が長年「北の国から」のようなドラマなどで訴えかけ続けてきたものであるが、童話という形をとることにより、よりいっそうそのメッセージをストレートに伝えようとしている。
 本書は『パパラギ』を思い起こさせる。南の島の王から見た白人たちの行動を記したメッセージと共通するものがここにはある。それは、「文明」という美名で語られる現代人の本質をむき出しにする無垢な視点である。
 ニングルたちもまた、『パパラギ』の王ツイアビと同様、現代人とは違う尺度でものを見る。人間たちが木を切り払う理由も、獣を殺す理由も、お金を大切にする理由も、ニングルたちの尺度で解釈される。そして、現代人の愚かさがあらわになる。
 ただ、ツイアビと違う点がひとつある。それは、作者自身もまたそういった現代文明に生きる者だということだ。ここには、自分も現代社会の一員であるという負い目は一切感じられない。作者は、ニングルという存在の代弁者となることにより、文明の告発者になりきっているが、作者自身の反省は全くはさみこまれない。
 だから、この物語にこめられたメッセージは、あまりにストレートすぎて、気恥ずかしくなる。ここまでおおらかに自然賛歌をうたいあげられる人物は、作者をおいて他にはいないだろうし、その自信に満ちたタッチは、まぶしくさえ感じられるが、同時になにかアンフェアなものも感じてしまうのだ。
 この素朴さ、無骨さ、そしておおらかさをストレートに受け止められるのは、子どもたちだけの特権なのかもしれない。大人である我々は、どうしても意地悪く読んでしまうのである。

(2002年6月23日読了)


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