コシの国のケヒの浜に流れ着いたミマの国のミマキ王子には額に角が生えていた。彼はそれがためにツヌノオオキミと呼ばれ、ヤマトのモモソ姫のもとにおもむく。ミマキ王子はその角の持つ力によりヤマトのオオキミとして迎え入れられる。そして、モモソ姫が奉ずる天の神と、兵を出した先におわす地の神との相克を取り除き、真の平和をもたらそうと決意する。ミマキ王子の理想を完成させる前に立ちはだかる障壁とは……。
本書は「古事記」などに登場する「ツヌガアラシト」の伝説に、崇神天皇による大和朝廷確立の業績を照らし合わせ、新たな神話を作り出したものである。いわゆるエンターテインメントの手法で書かれたものではなく、作者の意図するのは神話の再構築である。したがって、クライマックスというべきシーンでさえも、物語は淡々と進む。伝奇アクションを期待して読むと、肩透かしを食らうかもしれない。しかし、作者の意図はあくまで日本列島に残る神の物語を見直そうというものであり、英雄譚ではないのだ。
日本独自の神に対する概念などをきっちりと押さえ、ファンタジーとしての要素も加味し、独特の世界を構築している。そういう意味では、本書は新書ノベルズという形で発行されるべき小説ではなかったのではないかと思う。この形式だと、どうしても従来からある伝奇アクションの要素を求められてしまうからだ。そういう意味では、本書はハードカバーの文芸書という体裁がふさわしいような気がする。だから、この版型でこういう形の物語を書き始めた作者が、どのような形で読者のニーズに応えていくか興味深い。
作者の志の高さが読み取れるだけに、下手な迎合はせずにこのまま構想を押し進めていってほしいものである。
(2002年7月17日読了)