読書感想文


オモロイやつら
竹本浩三著
文春新書
2002年7月20日第1刷
定価680円

 長らく吉本興業の文芸部で「吉本新喜劇」などの台本を書いてきた著者による、芸人のエピソード集。西川きよし・ヘレン、花菱アチャコ、今いくよ・くるよ、藤田まこと、トニー谷、宮川大助・花子、人生幸朗、桂文珍、笑福亭鶴瓶、伴淳三郎、レツゴー三匹、林正之助・吉本せいの11組の芸人と、吉本興業を生み育てた姉弟について、笑ってしまう奇行、泣かせる人情話などが収められている。
 ここで展開されるエピソードは、芸人というものが秘めた尋常ならざる狂気であろう。社会の枠からはみだすような部分がなければ芸人として大成しないということを暗に示しているのかもしれない。だが、単に突出したキャラクターというだけではいけない、愛嬌というものもないといけないということもここからは読み取れる。それをはっきりさせているのはトニー谷のエピソードで、傲慢さと小心さが表裏一体となった人間像を描くことにより、人から愛されることのないまま人気を失っていった「スター」の悲しさが描かれている。
 残念なのは、エピソードに書かれたできごとがいつ頃のことなのかが全く記されていないことなのだ。本書が笑芸の世界の貴重な証言となるためには年月日の細かいところまではいいが、少なくとも西暦あるいは昭和何年頃の話かは書いておいてほしかった。芸能界にくわしい人ならばいつ頃の時代のエピソードかわかるのだろうが、本書は文春新書というそうくわしくない人も手に取る形態で出版されたものである。ちょっと不親切ではないかと感じた。
 また、横山エンタツと花菱アチャコがコンビ別れした理由やアチャコの芸名の由来など、諸説あってこれと決められないものを、従来の定説を無批判に踏襲して断定していたりするのも気になる。著者自身が関わった部分のエピソードが生き生きと書かれているだけに、自身が体験していないことなどについてはしっかり裏付けをとってほしいところだ。
 エピソード集としては申し分ない。内部の人間にしかわからない話がたくさん書かれていて、かつ嫌らしい暴露本になっていないところなど、うまさを感じさせる。楽しい一冊なのである。

(2002年7月22日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る