読書感想文


ターザンと蟻人間
エドガー・ライス・バロウズ著
高橋豊訳
ハヤカワ文庫SF
1973年10月31日第1刷
1979年9月15日第3刷
定価360円

 ターザン・シリーズ第10巻。
 飛行機の運転をおぼえたターザンが喜んで空の旅を満喫していたら、密林の奥地に彼も知らぬ秘境を見つける。高度を落とし過ぎて遭難し、気を失った彼が目を覚ましたのは、女性が男性を支配する原人の集落だった。集落を脱出したターザンは、身のたけが3分の1程度の小人たちが暮らす国にたどりついた。小人たちは秩序だった統治を行っていて、いくつかの部族に別れて戦いを繰り返していた。彼は高潔な王アデンドロハーキスが治めるトロハナダルマクス国の味方となって、侵略してきた隣のヴェルピトテクマクス国と戦うが、油断をしていて気を失い、捕虜となってしまう。彼はこの国の人々を巨人化させる研究をしている科学者ゾアンスロハゴの手により、小人にされてしまう。奴隷にされた彼は脱出と、そして再び巨大化する方法を探そうと決意した。秘境でのターザンの活躍やいかに。
 密林の奥地が秘境であった、古きよき時代の物語である。もっとも、ターザンシリーズのほとんど全てが密林の奥地で繰り広げられる秘境小説であるのだが、本巻は特に強烈である。いわば、地球にいながら異星に行ったような、ジョン・カーターが火星で経験するような活躍をそのままターザンにもってきたというべき内容なのである。
 15〜7年前に読んだ切りでほんとに久々の再読である。以前読んだ時はシリーズ全巻一気読みということをしていたわけでさすがにここらあたりになると飽きてきて、バカバカしいだけの話だと思ったものだが、今回単独で読み直してみて、バカバカしいことは確かなのだけれど、秘境の原人や蟻人間の国の社会制度などの設定がかなり細かくきっちりと描かれていることに感心した。E・R・バロウズの真骨頂はまさにその異文化創出の巧みさなのだと思うが、本巻でもその手腕をしっかりと奮っているのだ。
 ターザンというスーパーヒーローの前では、不可能なことは何もないというストーリー展開にはやっぱり以前と同様に苦しいものを感じたのは事実だが、こと秘境の設定という点においてはさすがと言わねばなるまい。

(2002年7月31日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る