今後の奥地で発見された有尾人、チュニスの食肉岩地帯に現れた赤首人。チベットの魔境で遭遇した古代のユートピア……。全13話からなる本書は、昭和初期の世界の秘境を舞台にした異形のコレクションである。探検家折竹孫一は、第3話以降のレギュラーとして登場し、これらの異形を次々と紹介していく。その中で、様々な人たちが織り成す人間模様も魅力の一つ。
久々に再読して感じたのは、本書が書かれた昭和10年代の日本の国際色の豊かさである。通俗小説でここまで世界中の文物が当然のように描かれていたということは、それだけ当時の日本人が世界各国について高い関心をもっていたという証拠ではないかと思う。
秘境の舞台は米国の雑誌から引っぱってきていたと解説にあるが、そこにあらわれる奇怪な事件はむろん作者の創造。つまり、作家も読者も未知なるものへの関心や好奇心がそれだけ高かったということなのだ。私は現代社会でいかに真実味のある「秘境小説」を成立させるかに関心をもっているが、現代日本人の海外に関する関心の方向性を考えると、まだまだ人跡未踏の地があってもそれを「秘境小説」に仕立てるのはかなり難しいのではないかと感じてしまった。
「秘境小説」とは社会全体がまだ若く、好奇心に満ちていた時代でなければ成立しえないのではないかと愚考する次第。そして、新たに書かれる「秘境小説」はそのような時代へのノスタルジーにしか過ぎないのではないだろうか。
(2002年8月2日読了)