読書感想文


遥か幻のモンデルカ
清水義範著
集英社
1993年7月25日第1刷
定価1262円

 「秘境」を題材にしたパスティーシュ小説集。
 「悠久のアクチアジャンパン」は幻の遺跡アクチアジャンパンを求めて調査隊が苦心惨憺して探検を行う様子を描く。「渾身のアドベンチャー・ロード」は冒険家として知られる大学教員の実態が綴られる。表題作「遥か幻のモンデルカ」は一人の探検家の書き残した文献によってモンデルカという幻の動物がいることを知った男があらゆる手段を使ってモンデルカの棲む秘境にたどりつき、その男にふりまわされる者たちの人間模様が展開される。
 現代における「秘境」は、結局のところこういったパロディ的なものにならざるをえないのだろう。現代人が未知のものとしてオカルティックな存在を求める傾向があるが、それはあくまで神秘的なものでなければならず、発見されてしまえば分析、研究され科学の体系にからめとられてしまうものであってはならないのかもしれない。地球のどこかにまだ我々の知らない世界があり、そこでは既に滅びたはずのものがいきている、などというものにはロマンは感じられないのだろう。
 作者がなぜ「秘境」をパスティーシュの対象にしたのかを考えてみるのも面白い。作者は「秘境」を笑いものにしたいのではないだろう。それよりも「秘境」を矮小化してしまうマス・メディアに対して寂しさを感じているのではないだろうか。本書に収録された各編は、いずれもそのようなマス・メディアを中心に展開される。ここで描かれる「秘境」はマス・メディアによってそのロマンティシズムを奪われる対象なのだ。情報化が進む中で失われていくものに対する鎮魂の書、それが本書なのである。

(2002年8月4日読了)


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