ヒューゴー賞/キャンベル記念賞受賞作品。
250年のうち35年だけ光を放ち、残りの年は火が消えてしまう奇妙な恒星、オンオフ星。その惑星に知的生命体がいると知り、通商を行いに来たのがチェンホー船団。そしてその知的生命体を支配し文明をのばしてやって利用しようとやって来たのがエマージェント船団。それそれの思惑を隠しながらとりあえず協同でファースト・コンタクトを試みることになったが、エマージェント船団を率いるトマス・ナウは、巧妙な手段でチェンホー船団を攻撃し、彼らをほぼ支配下におくことに成功する。ウィルス性疾患である精神腐敗病をチェンホーの者に罹患させ、一つのことに集中すること以外には何もできない奴隷を作り出したトマスは、チェンホーの少女キウィを手なずけてエマージェントとチェンホーの接着剤としながら、密かにチェンホー全体を支配しようとしていた。しかし、それに対してチェンホー側の責任者であるエズルや、役立たずの老人のふりをしていたファムらは反撃の機会をうかがっていた。一方、オンオフ星の惑星に住む知的生命体の生活は、発掘した書籍や傍受した放送からその全貌がわかりかけてきた。天才科学者のシャケナーを中心に科学的な発展が進みつつあるのだ。人類起源の2つの船団の暗闘の行方は、そしてファースト・コンタクトはどのような形で行われるのか……。
エマージェントの他者への支配の方法は白人が18世紀から行ってきたことの隠喩だろうか。精神腐敗病という疾患を利用して一つの機能しかもたない奴隷人間を作り出すというアイデアが秀逸。独裁者の支配とはつまり、いかにして民衆を自分の意志を待たない機械にするかにかかっているからだ。そういった同じ人類起源であっても全く思考様式の異なった者の対立がきめ細かく描かれており、これが実に面白い。トマスに利用されているのに献身的な働きをするキウィや恋人を奴隷化されて復讐に燃えるエズルなど、登場人物の個性の書き分けもうまくいっている。また恒星間飛行にともなう冷凍睡眠によって生じる年齢差の問題などが人間関係にさらに深みを与えている。
オンオフ星というアイデアに基づいた蜘蛛型人類と接触など、いろいろな課題を残して物語は下巻に続く。この面白さからいって多少物語が長くなってもやむを得ないところもあるのだが、それにしても長過ぎる。もう少し刈り込んで展開にスピード感を与えてほしいと思う。結末まで一気に読んでしまいたいのに、この長さではいささかだれてしまうのも事実なのだ。
(2002年8月11日読了)