読書感想文


夏休みは命がけ!
とみなが貴和著
角川スニーカー文庫・スニーカーミステリ倶楽部
2002年8月1日第1刷
定価648円

 恋人にふられて夏休みの計画が全てつぶれてしまった高校生、瓜生は、中学時代の友人の五郎丸が自分の部屋にひきこもっていることを知る。五郎丸の妹から兄を助けてほしいと頼まれた瓜生は、断わり切れずにその様子を見に行くが、五郎丸は猟銃を持ち出して裏山で烏を撃ち殺すことに熱中していた。その状況を恐れてその場は逃げ出した瓜生だったが、翌日駅で思いつめた表情をしている五郎丸を見かけ、彼の妹に連絡をとる。やはり五郎丸は不在、そして彼の祖父の猟銃も一丁消えていた。五郎丸の後を追い東京に行く瓜生。上野駅前で札束をまき散らし、烏の死骸を投げ込んだものがいるという事件を知り、それを手がかりに五郎丸を探す。瓜生は上野の繁華街で道に迷い、暴力団が闇取り引きをしている場に遭遇してしまう。しかも、その場所には彼の前に五郎丸も現れていたらしいのだ。謎の中国人女性に助けられ、さらに五郎丸を探すが、彼の後を追うように暴力団の影が……。瓜生は最悪の状況から脱出できるのか。そして五郎丸に追いつくことができるのか。
 巻きこまれ型主人公の典型。どこにでもいそうな高校生と極端な行動をする友人にふりまわされた挙げ句、日常では決して接触することのない人々と接触し、文字どおり命がけの1日を送る。その展開は明らかに現実的ではない。にもかかわらず、本書はそれを無理なく展開することに成功している。「死」というものを意識することのない日常を送る高校生がいきなり命がけで行動しなくてはならなくなるというシチュエーションで、主人公たちがとる行動に無理がないからだろう。自分が命を狙われているという状況で、終電に間に合うように帰ることを再優先させてしまう様子など、さもありなんという感じがする。
 不満があるとすれば、タイトルのつけ方や発表媒体だろう。まるでコメディであるようなタイトルに、ヤングアダルト文庫での発表。その内容からいっても本書はコメディ的なものとはいいがたいし、主人公は少年たちだがそこで起こる事件は少年がいるべきでない場所でのものなのだ。そういう場所から少年たちが逃れようとするあたりに本書の見せ場がある。これはノベルズという形態で発表した方がよいのではいかと思うのだ。
 だから、ふだんヤングアダルト小説を読まない人にこそ、本書はお薦めしたい。そして、作者の実力をその目で確かめていただきたい。

(2002年8月18日読了)


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