読書感想文


イカ星人
北野勇作著
徳間デュアル文庫
2002年8月31日第1刷
定価505円

 SF作家Kが決めたアルバイトはイカ星人の秘密工場で、そこではイカ製品が作られていた。どうやらイカ星人はそういった製品によって人間を変えていっているらしく、人間はイカ星人と戦っているはずなのである。Kもまた自分なりにイカ星人に抵抗しているのだが、だからといってそれが全体の戦いにとってどれだけの意味を持つのかはよくわからないのであった。
 あらすじといえるものがあるのかないのかいかんともしがたい小説である。主人公は小説家Kであるのだが、彼をとりまく状況そのものがストーリーであり彼が動くことによってドラスティックな変化が起こるわけではない。
 これはもう「北野勇作」的世界としかいいようのないものなのだが、そういってしまうと、そこで思考停止してしまうことになる。読みながらいろいろと考えてみる。例えば、小道具の問題である。ナノマシンという小道具を持ってくるとそれだけで本格SFみたいな気がするが、作者はその代わりにイカソーメンやイカの塩辛を使うのである。人間の姿をデフォルメしたような宇宙人を侵略者として登場させずにイカの姿をした侵略者を連れてくる。「イカ星人」と呼んではいるが、別に彼らは「イカ星」からきた宇宙人ではなくイカに似ているから人間が勝手にそう呼んでいるだけなのだ。納得しやすい小道具を使用せず、我々の日常になじんだものをあてることにより、なんとも微妙なズレが生じる。そこらあたりになんとも名状しがたい世界が構築されることになるのだろう。
 ではなぜ「イカ」なのか。というのは愚問だろう。キングコングがゴリラでなければならない必然性はない。それと同じことだ。作者がこの作品にふさわしいと考える内的な必然性があったのだろうというしかない。
 気がつけば大変なことが起きているとがそれが気がつけば日常になってるという、作者おなじみのパターンながら、今回もその世界にしっかりと引きずりこまれてしまった。もの哀しくも恐ろしい佳品である。

(2002年8月19日読了)


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