独立以来、大韓民国の大統領に就任した者は8名。李承晩、尹ボ善※、朴正熙、崔圭夏、全斗煥、盧泰愚、金泳三、金大中の順になる。この間に憲法改訂が9回。時の大統領が自分の権力をふるうために改定したものが多く、失脚した者、暗殺された者、任期は満了しながらも退任後疑獄事件で逮捕された者と他国と比較しても平穏な大統領交代はなされていない。
著者は韓国人ジャーナリスト。リアルタイムで韓国の歴史を見てきた生き証人である。その著者が、大統領の業績や人物像を極めて冷静に綴り、この国がかかえている問題点を浮き彫りにしたものが本書である。
韓国大統領には、権限が集中し過ぎていると、著者は書く。そして、それは独立以前からあった権力者に追従しがちな韓国人の気質により助長され、志を高く持った人物であっても、その権力の持つ魔力に打ち勝つことができないと指摘する。また、韓国大統領選挙は政策よりも地縁による派閥の争いという側面が強いという指摘もある。
確かに、私の記憶でも金大中拉致事件、朴正熙の暗殺や光州事件など、政権維持のために起こされた事件が強く印象に残っている。それらの事件の原因や結果、経緯に関しても、本書は簡潔に、しかし過不足なく記している。本書は、韓国の戦後史を大統領という特別な立場から見ていこうという試みなのである。
W杯の共同開催以来、韓国に関する本はいろいろと出ているが、それは日本との関わりを中心にしたものが主であり、本書のようにジャーナリスティックな視点で書かれたものは意外に少ないようだ。そこに本書の持つ意義があると思う。そして、韓国史をたどることによって、日本と韓国の関係もまた見えてくるのである。
※「尹ボ善」の「ボ」にはさんずいに普という漢字があてはまるが、この字は手元の漢和辞典にすら乗っておらず、カタカナに置き換えた。
(2002年8月21日読了)