著者は精神科医。だからといって、本書は17歳の青年による犯罪などの事件の原因をしたり顔で「分析」したものではない。著者はここで自分が17歳だった時の精神的な不安定さを告白し、現在自分が関わっている患者について語りながら思春期の若者が持つ独特の危うさを指摘する。
その上で、現在の若者たちの行状をきっぱりと否定するのである。それどころか、怒り、いや憎しみすら感じさせるような筆致で現在の若者にたいして批判を加える。批判、というよりは、私には著者の「ぼやき」に感じられたのではあるが。
では本書はなんなんだ、と考えてみた時に、私は自分が37歳の年に同年生まれの人間が次々と変質的な犯罪をし、1962年生まれの者はみな異常者だとまで書かれたことを思い出した。識者と呼ばれる人たちがもっともらしい理由をつけて1962年生まれの者の異常性を「分析」していた。
本書は、そういった「分析」の対極にある。
全てのことに対して説明をつけわかったような気にさせる書物に対する著者の挑戦と断定してしまうのは危険かもしれないが、わけのわからんものに対しては「わけがわからん」とはっきり言えばいいという確固たる姿勢が本書には現れている。若者とは大人から見たらいつだって「わけのわからんもの」であったはずだし、それに対してわかったようなふりをするのは非情に恥ずかしいということが言いたいのだろうと思う。
だから、本書は刺激的で面白い。「わからんもの」に対するには、まず自分自身が「わからん」ということを自覚しなければそれに対処することはできないのだということを思い起こさせてくれるからなのである。そして、「わからん」と切って捨てるのでなく、「わからん」自分を受け入れ、そしてそこから自分なりに対処していく方法を考えなければならないということなのだろう。
(2002年8月21日読了)