本書は菅原道真の生涯を、日本紀略や大鏡などの記述に基づき物語風にわかりやすく書かれたものである。小説のように書かれているかと思うと、当時の社会についての解説や菅原道真の事蹟についての説明がていねいに書きこまれている。つまり、歴史にあまりくわしくない人に向けて書かれたものだといえる。
だからといって、本書が資料としてまるで役にたたないというわけではない。菅原道真の姿を大づかみに示し、読者が具体的なイメージを持てるようにという工夫がなされている。ただ、浄瑠璃の「菅原伝授手習鑑」の内容を史実にまぜてしまうような書き方がされていたりというあたり、著者の勇み足かもしれない。
視点としては、菅原道真を悲劇の主役として扱っている。あまりに美化し過ぎるのも考えもので、道真の嫌な面も書かれているのだが、それは嫌な目にあわされた人物のせいにされてしまっていたりする。そういう点では、本当の意味での菅原道真の人物像をいささかゆがめてしまう危険性も秘めているように思う。
菅原道真の周辺の人物との関係はよく書きこまれているので、道真が死後怨霊とされた理由などもわかりやすい。このわかりやすさこそ本書の命だろう。学術書ではわかりにくいという読者にとっては最適の解説書かもしれない。
(2002年9月4日読了)