岩手県南部にある聖天神社の後継者、聖天弓弦は、同県にある神嶋神社の宮司、安東英俊に頼まれて、百年に一度の大祭を手伝うことになる。神嶋神社は人形供養をすることで知られているが、百年前の大祭の時に大津波が起きて大惨事になったという過去がある。その惨事の原因を知るものはわずか数名。弓弦にもくわしい話は伝えられない。しかし、神嶋に入った弓弦はその地にあふれる異様な気を感じとる。村の人間以外は入れてはいけないという大祭のさなか、東京から人形供養を依頼にきた漫画家のアシスタント、山田頼子がやってくる。彼女が持参した市松人形に秘められた力とは。大祭に隠された秘密とは。そして、祭の夜に起こった怪異とは。東北地方に残された神の力が蘇ろうとしてる……。
人形というモチーフと蝦夷の神というテーマをうまくからめた、壮大な伝奇アクションである。日本SFの正統派という印象のあった作者が、本書では高橋克彦ばりの土俗的な伝奇小説を発表した。確かに当初は意外だと感じたけれど、デビュー以来キリスト教の「神」という存在をSF的に問いかけてきた作者の、その問いかけの対象が地元の神に広がっていったということになるわけだから、これはごく自然な成りゆきなのかもしれない。
本書は息詰まるような展開で読者を引っぱっていく。特に、土着の祭と地方出身の漫画家志望者のエピソードが少しずつからんでいく構成が効果的である。それだけに主人公のキャラクターがいくぶん弱いのが気にはかかるのだが。主人公のライバルとして登場する悪霊払いの法印空木というキャラクターがかなり印象的なだけに、この設定でシリーズ化するのならばもう少し主人公の個性を印象付けるだけの強さがほしいところだ。
ラストの処理の仕方は私の好みではないが、作者の個性を考えるとこういう形になる必然性はあるのだろう。
とはいえ、実に迫力のある作品で、これだけの力技を見せられると、作者に地力がついてきたことを実感させられる。今後のシリーズ化に期待したいし、高橋克彦とはまた違った切り口で東北の土俗的な神を表現していくだろう。それが楽しみである。
(2002年10月2日読了)