霧の夜、魔界都市新宿のマン・サーチャー、秋せつらは仮面をかぶった男とそして寄り添うように歩く女を発見する。彼が教師左京恵利に捜索を依頼されていた、殺された兄夫婦がこの二人であることは明らかであったが、その冒しがたい雰囲気にさすがのせつらも手が出ない。その仮面が死者を蘇らせる〈黄泉がえりの面〉であるとすれば、彼らの蘇った目的はいったいなんなのか。一方、〈凍らせ屋〉の異名をもつ魔界都市随一の刑事、屍刑四郎は、暴力団員に復讐の殺戮をする仮面の男と遭遇する。せつらは京都へ行き、面打ちの名匠、黄泉藤吉と接触、彼の娘が嫁ぐ時に渡した〈鬼人面〉〈殺生面〉の存在を知る。左京の妻が藤吉の孫娘であったことから、藤吉はせつらと新宿へ同道する。その〈鬼人面〉は新宿の商工会長、小西の手にあった。仮面のコレクターである小西は、左京夫妻を殺害してそれを手に入れたのだ。小西と面をめぐり、復讐の鬼である左京夫妻、せつらと藤吉老人、そして小西の娘みかげと刑四郎たちが入り乱れる激しい戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
シリーズ中期の傑作。この時期は『死人機士団』などシリーズを代表する傑作が次々と発表されていた。今回再読して感じたのは、作者のメインキャラクターに対する思いの強さである。それはそうだろう。同じ町を舞台にしながら共演することのなかった秋せつらと屍刑四郎がからみ、そこに当然メフィストも加わる。個性の違いを強烈にしなければ、お互いを食い合って物語を崩壊させてしまう。
その崩壊を食い止めるのが〈仮面〉の力である。仮面をかぶることにより人は変身する。その魔力の強さでメインの人物たちの活躍をひとつに結びつけていこうとする。
続刊でこの物語は完結するが、仮面にこめられた死から蘇った男の心情がこのオールスターキャストの物語を貫いているのである。
(2002年10月6日読了)