認知心理学者ジョアンナ・ランダーは、臨死体験を客観的にとらえるために聞き取り調査をしている。彼女の敵はノンフィクション作家のマンドレイクで、彼は臨死体験者からあの世の存在があると言う証言を誘導するのである。神経内科医のリチャード・ライトは、薬物を投与することにより疑似臨死体験を引き起こすという方法を開発し、これを本当の臨死体験と比較するためにジョアンナの協力を必要としていた。リチャードの姿勢に自分と同じ目的があると感じたジョアンナは、協力することに決意する。しかし、リチャードが用意した被験者は既にマンドレイクの著書による先入観を持っていたり、多忙で実験を受けられなかったりする。ジョアンナは自分が被験者となり、身をもって臨死体験を解明しようとする。彼女が実験中に見たものは、あの世ではなく、どこか知っている場所であった。しかし、彼女にはそこがどこであるかがまだわからない。臨死体験はただの幻覚なのか……。
臨死体験を科学的に解明するという試みを小説として描きあげた大作。上巻では、臨死体験というものが実際はどういうものなのかを、トンデモ本的な虚飾を廃しながら、少しずつ描いていく。多彩な登場人物を自由自在に動かしながら、物語は臨死体験の核心に少しずつ迫っていく。
傑作『ドゥームズデイ・ブック』でみせた、読者をじらせながら作品世界に引っぱりこんでいくうまさは健在である。ここまでかなりのページを費やしながら、上巻ではまだ臨死体験の秘密はベールに隠されたままなのである。そのベールの横からちらちらと見えるものは、トンデモ本の方向に進んでもおかしくないものだ。
登場人物は、いずれも一癖も二癖もあり、それがなんともおかしい。ここらあたりのギャグ感覚は絶妙。繰り返しギャグの効果がここまでうまくいっている小説は少ないのではないか。
というわけで、秘密の解明は全て下巻に。上巻のおしまいあたりから読者の予想を裏切るような展開に入っていっているので、どのような展開になるのかが期待されるところだ。
(2002年9月29日読了)