私立田中喜八学園高等学校、略して田喜(でんき)学園の新入生、諸星比夏留は、吹奏楽部に入部しようとしていたのに、なぜか民俗学研究会に入部するはめになってしまう。比夏留は古武道独楽の当主の娘で、古武道独楽は肥満体型でないと技の効き目が半減するにも関わらず、食べても食べても太らないで悩んでいる。学園の裏にある「常世の森」には龍が住む洞窟があると噂され、そこは蓬莱郷という理想郷であると教えられた生徒たちが行方不明になるという事件が起こった。比夏留は民俗研の先輩たちとともに洞窟を探索しに行くが、彼女たちがそこで遭遇したものは……。
古文書や伝説、そして古代生物がからむ謎を高校生たちが解決するミステリ仕立ての連作短編。そのアイデアの核となる伝奇的な謎については、非常に深いものがある。ではあるが、もちろん作者のことであるから、地口ぬきではおさまらない。また、登場人物もユニークなキャラクターではあるが、よくよく読めばとんでもない連中ばかり。これをヘビーなギャグ小説ではな、比較的軽いタッチのコメディ仕立てにしてしまうあたり、その笑いというものに関するセンスのよさを感じさせる。
もちろんこれまで作者の作品を読み続けてきた者にとっては、毎度皆様おなじみの伝奇駄洒落小説を、しっかり読みましょ終りまで、まいりましょう、でいいわけなのだが。赤川次郎タッチのコメディ・ミステリみたいな感覚で読ませてしまえるだけに、初めての読者がどう受け取るか。
私としては、作者の地口は好きなのだが、どのシリーズもこういう形にしてしまわれるといささか食傷気味になってしまうのも事実ではある。ユニークなキャラクターと伝奇的な謎、そして大胆な解決法、それで十分ではないかとも思うのだ。そこらあたり、作者の今後の課題として残っていくところなのではないかと思う。
本書に関しては、こういったタッチのものを書けるということになると、作者の作家としての幅が広がっていっていいのではないかと思う。
(2002年10月13日読了)