「シャボン玉ホリデー」を中心とした質の高いヴァラエティ番組が次々と作られていた1960年代のテレビ界。著者は、ヒッチコックマガジンの編集長をやめた後、なんでも吸いこんでいくその世界に一時身を置き、構成台本を書き、出演さえした。同時代の永六輔、前田武彦、青島幸男、大橋巨泉といった人たちに近いポジションにいたのである(当時のペンネームは中原弓彦)。小説に専念するためにそこから退いた著者が、自分で見聞きしたテレビヴァラエティの黄金時代を活写する。
これまで著者が書いてきたテレビ関係の著作の集大成ともいえる。エッセイなどで読んだことのあるエピソードだけでなく、これまで書かれなかった裏の事情なども盛りこまれている。著者のこれまでの芸能関係の著作と同様、裏付けをきっちりとしているので資料的価値も高い。当時のメモをきちんと残してあり、そのメモに書かれている内容が、現在の視点から見ても的を射ているところがすごいのである。
果たして、上方演芸でこれだけの仕事ができる人が現在のこっているだろうか、とも思った。同時代の証人が書くものは資料の裏付けに乏しかったりする。澤田隆治、新野新といった人たちならばこれに匹敵するものを残してくれそうに思うのだが。あるいは桂米朝。これらの人たちにぜひまとまった上方演芸史を書いてもらいたいのである。
それはともかく、本書は面白い。当時のなんともいえない混沌と熱気が行間から伝わってくるのだ。それは、時代の空気とでもいうべきものなのだろう。芸能史に関する貴重な証言がこういう形で残されたことに感謝しなくてはなるまい。
(2002年10月14日読了)