著者は、クラシック音楽のCD制作にたずさわる音楽プロデューサー。そんな著者の目から見たウィーン・フィルの魅力を余すところなく伝えている。
ウィーン・フィルの歴史、そしてフルトヴェングラー、カラヤン、ベームといったウィーン・フィルと親密な関係にあった指揮者のエピソード、ウィーン・フィルの楽団員たちの音楽観など、様々な角度からその音と響きの秘密が探られる。
本書を読んで感じたのは、ウィーン・フィルのよさはその歴史と伝統にあり、また欠点もその歴史と伝統にあるということなのだということ。自分たちの音作りに対するポリシーがあるのは素晴らしいことであるが、指揮者の個性を尊重して新しい音作りをするどころか、若い指揮者などは全く無視してコンサートマスターが勝手に自分たちの演奏をしてしまういうのは考えものである。しかも、著者はそんな困った面をも称讃に変えてしまうのだから、これはひいきの引き倒し以外のなにものでもない。
そういう意味では、本書はウィーン・フィルのファンによるウィーン・フィルのための、ウィーン・フィル・ファンブックといっていいだろう。もっとも、著者にしか知り得ない裏話などもあり、そこらあたりを楽しむゴシップ好きのクラシック・ファンには喜ばれるかもしれないが。
(2002年10月19日読了)