読書感想文


浮き世はいとし人情こいし
夢路いとし・喜味こいし著
中央公論新社
2002年10月25日第1刷
定価1300円

 芸歴60年をこえる漫才界の超ベテランコンビがじっくりと思い出話や世相批判、そして近況などを語る。貴重な証言というだけではない。活字という形で二人の話芸を確かめることができる。もともとは新聞連載であったものを単行本にまとめているのだが、ふつうこういった新聞企画は一冊にまとめられることは少ないのに、このように出版された。それが嬉しい。
 たとえばいとし師匠は若い頃からSFやミステリを愛読する読書家で、柔軟な思考をする人だということがわかる。「最近は一冊読むのに二、三日かかる」という発言には驚かされる思いだ。広島で原爆体験をしたこいし師匠の実感、帰阪してきたこいし師匠をいとし師匠が迎えたのは「おう」という一言だけであったが、家族の生還というのはそういうものではないかという言葉などが心に残る。どんな話も笑いに結びつけていくのは、二人にしみついた「芸」のなせるわざだろう。
 読んでいると、二人の声が聞こえてくる。これは、取材のテープも編集し、CDも別売してほしくなった。活字では伝わらない「間」を味わいたくなってくる。活字を目で追っているだけでもその会話の「間」の絶妙さが伝わってくるのだ。CDだとよけいにそれを堪能できることだろう。
 味わいのある対談である。大所高所に立ったお説教本よりもよほど説得力のある人生論ではないだろうか。

(2002年10月31日読了)


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