エジプト生まれのミイラで〈ひいが千回つく〉おばあちゃん、心をとばしてあらゆるものの中に入ってそのものの体験することを実感することのできるセシー、美しい翼を持ち空を自由にかけめぐるアイナーおじさん。イリノイ州にあるその一軒家には、不思議な一族が住んでいる。ただ一人、人間の子どもであるティモシーは、そんな一族に育てられた。しかし、その一族に人間の魔の手が迫る。一族たちはあえなく塵となってしまうのだろうか。ティモシーが果たすべき役割とはなんだったのだろうか。
ブラッドベリが書き継いできた〈一族〉の物語が、ブリッジとなるエピソードを加えてつなぎ合わされ、長編として完成された。80歳を超えてなお現役である作者のイマジネーションは、今も衰えてはいない。その詩的な感性も、昔と変わらない。人々が見失ってしまったおとぎの世界のファンタスティックな存在が滅び去る一瞬が、寂寥感たっぷりに描かれる。その存在が消えないように守っていくのは一人の少年なわけだが、ここらあたりに作者のいいたいことが凝縮されているように思う。そんな少年の心をいつまでも失わないブラッドベリならではの最新作だといえるだろう。
(2002年11月6日読了)