読書感想文


火怨 上 北の耀星アテルイ
高橋克彦著
講談社文庫
2002年10月15日第1刷
定価762円

 吉川英治文学賞受賞作品。
 平安時代初期に東北で坂上田村麻呂と死闘を演じた蝦夷の英雄、阿弖流為を主人公にした力作。東北の蝦夷を、大和朝廷に追われた出雲一族の末裔とし、やはり朝廷から追われた物部一族とともに独立勢力として戦い抜いた男の姿を描いている。物語は阿弖流為がまだ若年であった時代から説き起こされる。朝廷に屈したふりをしていた蝦夷の鮮麻呂の策を受け、若き阿弖流為は陸奥守に対し、奇襲戦法でこれを破る。それは、しいたげられていた蝦夷が朝廷に対して行った最初の叛乱であった。朝廷は再び、三たび強大な兵力を擁して蝦夷を屈服させようとするが、軍師の母礼や戦士の飛良手らとともに、阿弖流為は鮮やかな作戦でこれをはねかえす。バックアップする物部二風らもまた、東北を独立勢力として守り抜こうという気概の持ち主である。
 東北の地を愛する作者にふさわしい題材である。史料が少ないだろうが、その分を補って余りある想像力で、古代の英雄阿弖流為ら蝦夷たちの姿を生き生きと描き出しているのだ。蝦夷を人間とも思わずあなどり、自分の出世の一手段としてしか戦いをとらえない朝廷軍の将たちの愚かさと、自分たちの大地を守るために戦う蝦夷軍の若武者たちの対比が、戦いというものの本質をえぐり出している。
 本巻では連戦連勝の阿弖流為であるが、下巻では宿敵坂上田村麻呂が登場してくる。悲劇の英雄である阿弖流為の最期がどのように描かれるのか、興味は尽きない。

(2002年11月27日読了)


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