この10年に著者があちこちの媒体で書いてきた文章を項目別に分けてまとめたもの。第1部は、「ゴジラはなぜ『南』から来るのか?」をはじめとする怪獣や怪人に関する考察。第2部は「渋江保 明治のオカルトブームと文豪の謎」などの作家論。第3部は「二◯世紀の終り方」など、偽史を中心とした文化論。いずれも、古典SFに造詣の深い著者ならではの切り口である。
本書の特徴は、やはり古典SFから偽史に至る人間の想像力の歴史という観点にあるといえる。例えばゴジラという怪獣を論じるのにも、その背景となったものは何かに著者はこだわるのだ。だから、論考に奥行きが出てくる。日本列島という風土が育んできた文化が現代にも脈々と受け継がれているのだということを実感させてくれる。
特筆すべきは巻末に置かれた「医学の夢、生命の夢、手塚治虫の現実」である。ここでは手塚と戦争、そして医学を専攻した理由、漫画家になったあとでも医学博士の学位をとろうとした理由などが、一本の線につながるように明らかになる。歯学博士でもある著者ならではの論考というと偏見になるだろうか。
(2002年12月5日読了)