古代史を舞台にとった作品を書いていた作者の久々の新刊は、安倍晴明の少年時代を舞台にとったもの。古代史でもマイナーな人物を主人公にしていた作家だけに、復帰第1作がメジャーな晴明ものとはちょっと意外。
安倍保名と葛葉狐の間に産まれた童子丸は、14才となりその名も晴明となった。彼の側には白虎と名乗る白猫が常にいる。晴明は妖しのものを見る能力を持っていたのだが、白虎は彼の先祖にあたる人物から受けた恩を返すのだといって現れた謎の存在なのだ。そんな彼を探すように登場したのは、若き陰陽寮生、賀茂保憲。保憲はその肩に冥府からやってきた小野篁の霊を乗せていた。篁は、晴明を憑巫にして自分の娘、小野小町に呪をかけている妖狐を退治したいというのだ。葛葉狐に渡された玉に封じこめられた晴明のはかりしれぬ霊力が解き放たれる時が来ようとしている……。
安倍晴明、小野篁、そして小野小町という本来あり得ないとりあわせを、非常にうまく処理している。晴明と保憲の出会い、そして晴明の陰陽寮入りの理由など、これまであまり書かれてこなかったとろを押さえているのも作者らしい着眼点である。
ただ、どうしても手垢のついたキャラクターだけに作者独自の色を出し切れていないように感じた。この作者の本領はやはり古代史にあるのではないだろうか。今回は復帰第1作ということなので、今後再び作者によってユニークな古代史小説が書かれるのを期待したい。
(2002年12月11日読了)