25才の研修医、高村哲哉は、自分が愛した少女、美鈴を救うために10年前の自分の意識の中にタイムスリップすることに成功した。中学生の体に入ったことで最初はとまどった哲哉だったが、15才の自分の生活をなぞりながらその当時の意識を取り戻していく。しかし、肝心の自分が何のためにタイムスリップしたかについては記憶が抜け落ちてしまっている。美鈴を救うということをなんとか思い出した哲哉だったが、今度はその美鈴がどうして命を落としたかが思い出せない。それでも、美鈴の身に少しずつ危険は迫りつつある。親友の聡司や雅和に真実を打ち明け、哲哉はあの夏休みをもう一度なぞろうとしていた。哲哉たちは美鈴を救うことができるのか。
人生をもう一度やり直してみたい。誰もがそう思う時がある。主人公は自分のためではなく、自分の愛した少女、そして、その死に関わった者たち全てのために。欠落した記憶を補いながら自分の一番幸せだった頃を再び生きていく主人公の心情には、なんとも甘酸っぱいものを感じる。また、ストーリー運びも次はどのような展開になるのかと期待させつつ進み、飽きさせない。往年のジュヴナイルSFを思わせるノスタルジックな作品だ。やはりここでも作者は日本SFの本道を踏み外すことがない。
ただ、これを厳密な意味でSFかと問い直すと、SFとしては弱いのである。タイムスリップの処理、あるいは歴史介入の結果など、ファンタスティックではあるが、サイエンティフィックではないのだ。そのあたりの処理をもう少しきちっとしてほしかった。往年のジュヴナイルSFは、そのあたりの筋の通し方はきっちりしていたように思う。
あと、感じたのは、作者の心の優しさである。私だったら、もっと冷酷に主人公を扱ってしまうだろう。そこらあたりが作者の美質であると同時に弱さでもあるように感じてしまうのである。
(2002年12月13日読了)