読書感想文


七都市物語
田中芳樹著
ハヤカワ文庫JA
1990年3月15日第1刷
定価447円

 地軸が90度回転してしまう「大転倒」後の地球が舞台。人類は地球に7つの新しい都市を築いていた。月に移住して「大転倒」の危地を逃れた者たちは宇宙の細菌によって死滅してしまった。しかし、七都市の住人が月を攻撃しないように設置された迎撃システムはまだ生きている。ニューキャメロット市のケネス・ギルフォード、アクイロニア市のアルマリック・アスバール、プリンス・ハラルド市のユーリー・クルガンという人格は悪いが超一級の軍人たちの戦い、ブエノス・ゾンデ市の独裁者エゴン・ラウドルップやアクイロニア市のもと元首の息子チャールズ・コリン・モーブリッジ・ジュニアたち一般市民の命を顧みない為政者、野心はないが見識の深いアクイロニア市のリュウ・ウェイやブエノス・ゾンデ市のギュンター・ノルトなど、様々な人物たちが限られた7つの都市をめぐって知力を尽くした戦闘を始める。
 「銀河英雄伝説」でみせた戦略、戦術の面白さを本書では地上戦で再現している。空中からの攻撃は一切できないという制約を設け、平面的な戦闘を展開する。7つの都市の陣取り合戦という閉じた世界というのも物語を盛り上げる一つの要素になっている。
 ただ、どうしても「銀英伝」の焼き直し的な印象は免れ得ないし、3人の冷徹な勝負師もキャラクターが重なっていて区別がつきにくい。物語はいつでも続きが書けるような終り方をしているが、10年以上たった現在、続編が書かれていないのもそのような弱点を作者が十分わかった上でのことではないかと思われるのである。

(2002年12月20日読了)


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