読書感想文


運命の一球
近藤唯之著
新潮文庫
2003年1月1日第1刷
定価476円

 プロ野球の一流選手の運命を変えた瞬間について、おなじみ近藤節で送る最新刊。織田信長、坂本竜馬、長嶋茂雄が「日本3人男」と呼ばれていたとは知らなかった。こういう妙な決めつけに、著者の本を初めて読む読者はとまどうに違いない。山田久志投手が高校時代に三塁手から投手に転向したきっかけとなった悪送球を「いまでも能代高野球部史に語り伝えられる、『山田のさよなら負け一塁悪送球事件』である」と断定しているが、果たして著者は能代高まで行ってこれを確かめたのだろうか? 確かめてなくともよいのである。これが近藤節なのだ。時には講談、時には浪曲。
 とはいえ、ここのところ、とりあげる選手や事件のネタを使い回ししているような感じがする。新しいトピックもある。しかし、著者だからこそ聞くことができたというほどのトピックではなく、スポーツ新聞を普通に読んでいたらもう既にわかっているようなネタが多い。取材力が落ちているのかもしれない。年齢的にも若い選手から本音を聞き出しにくくなってもいるのだろう。
 そこでだ、もうこういう選手をアトランダムに配したものを書くのはやめて「日本プロ野球史」を書き残してほしいのだ。著者の年齢からいっても今こそそういった集大成的な仕事をする時期にきていると思う。新しいスポーツライターが次々と優れた仕事をしている現在、大御所である著者には他の誰にも真似できないことをしてほしいのである。大和球士の「プロ野球三国志」を超えるものができるに違いないのだから。どこか著者にそのような場を提供する出版社はないものか。

(2002年12月25日読了)


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