読書感想文


忌まわしい匣
牧野修著
集英社
1999年11月30日第1刷
定価1900円

 ホラー短編14編をブリッジとなる短編「忌まわしい匣」でつなぐ。作品それぞれに直接の関連性はないが、「異形コレクション」と「SFマガジン」に掲載された作品が中心となっていて、ホラー色のきついものとSF色のあるものがバランスよく収められている。
 男の記憶のなかに侵入する「おもひで女」、殺戮を繰り返す謎の男と少年の奇妙な道行きを追う「グノーシス心中」、生ける屍を自認する男の不気味な行動をたどる「シカバネ日記」、異邦人に憎しみを抱く男と謎の少女との邂逅を描く牧野流吸血鬼譚「甘い血」、自分が自分でなくなっていく女性の異様な幻想物語の「ワルツ」、老人たちが復活する古代の邪神と最後の戦いをする「翁戦記」、合理主義者が迷いこんだ場所で見せられたオカルティックな機械「〈非−知〉工場」、人々の脳をくじり毒電波を受け取ったと信じさせる存在の奇怪なゲームを描いた「電波大戦」、ある惑星で肉屋を営む男の秘密と恐怖の結末を描いた「我ハ一塊ノ肉塊ナリ」などが特に印象に残った。
 いずれも一般的な常識から逸脱したものをありのままに描き、そういった存在が引き起こす根源的な恐怖感を読者に突きつける。それは、我々が自分の内に孕んでおり、それが顕現することを恐れている狂気なのではないだろうか。しかも、作者はそれを心理学的な視点で合理的に描くなどという小賢しいことはしない。そんなことはまるで無意味だといわんばかりにあるがままの狂気をぶつけてくるのである。私たちは、その本質をあばきたてられているような気持ちに襲われざるを得ない。これこそ、牧野ホラーの真骨頂なのである。

(2002年12月28日読了)


目次に戻る

ホームページに戻る