人類が宇宙に進出し、エネルギーや食料などの資源を地球外に頼るようになった近未来が舞台。心のよりどころを宗教に求めることをやめる人々が急増、カトリック教会も方針転換を迫られている。そのかわりに異星人の存在を信じるものが増えていた。全地球的な規模で異星人とのコンタクトをはかる「ホメロスI」計画が推進されているが、それに反対する勢力もある。そして、明らかに人工的に作られたと思われる巨大な物体が地球に接近してくる……。
本書は、そのような設定の中で、神とは何かを求める神父、異星人に支配されていると妄信する精神科医、木星で計画に参加する物理学者、計画を押し進める俳優出身のアメリカ大統領、計画の失敗をもくろむ軍人などの多彩な人物たちを縦横に動かし、神の概念を探究し、ファースト・コンタクトの模様を活写するというSFならではの展開を繰り広げている。
その壮大なもくろみは、そういった巨視的な物語をつむいできた第一人者の名を冠した第1回小松左京賞にふさわしいものだといえよう。ただ難点をあげるとするならば、登場人物の行動がその設定に追いついておらず、神や異星人に対して根源的なところまで追求しきれなかったことだろう。
しかし、こういった大きなテーマに正攻法で立ち向かおうとする作者の姿勢には好感が持てるし、今後壮大な世界を構築していくであろう作者の出発点として大きな価値を持つ作品であることは間違いない。
(2000年11月17日読了)
(本稿はネット書店サイト「bk1」に掲載されたものをそのまま使用しております)