作者が「李家豊(りのいえ・ゆたか)」名義で「幻影城」に発表した初期の作品を収めた短編集。デビュー作「緑の草原に……」をはじめとして本格SFあり、疑似イベント小説ありとバラエティに富んだラインナップ。
「幻影城新人賞」受賞作の「緑の草原に……」は上陸しようとした乗組員が必ず全員死亡する惑星に今度こそちゃんと着陸しようとする宇宙船のクルーの冒険を描いたもので、乗組員の死亡する秘密がうまく描かれたトリッキーな短編。「いつの日か、ふたたび」はタイムマシンにのって駆け落ちする二人とそれを追う男たちの逃走と探索が描かれる。ロマンティックな結末なのだが、SF的にはちょっと弱いか。「流星航路」は定期宇宙船に乗りこんできた新人パイロットと熟練パイロットの葛藤が描かれる。これもかなりロマンティックな話。「懸賞金稼ぎ」は、タイトル通り懸賞金を稼ぐ男が懸賞首の犯罪者を倒す話なのだが、ラスト近くでのどんでん返しが鮮やか。「黄昏都市」ではアンドロイドとして再生された少年の運命の非情さを描く。タイトルから予想されるようにかなりセンチメンタルな話だ。「白い断頭台」はテレビのイベントでスキーレースに参加した男たちに仕掛けられた罠とその目的が描かれる。スリル感をうまく演出している。無知蒙昧な大衆へのシニカルな視点が、後の作品群を想起させる。「品種改良」は宇宙生物を品種改良して食用に供しようとする実業家の目論見と破滅を描く。途中でラストが読めてしまうが、欲をかいた人物の愚かさをうまく表現している。「深紅の寒流」はアラスカの海底に眠るナチスの遺産をめぐる冒険小説。
短編だと、その作家の資質がはっきりと現れてくる。ここに収められた初期作品には、作者のロマンティストの部分とニヒリストの部分が作品ごとにくっきりと浮かび上がってきて興味深い。後に見せる誇張した設定などはまだこの段階では現れていないが。発表された雑誌がミステリ系であるためか、ミステリ仕立てになっているものが多い。全体にうまくまとまった作品を書くがいくぶん小粒な印象を与える新人、という感じかな。
作者の方向性が定まったのは『銀河英雄伝説』であることが本書を読むとはっきりしてくる。指向するものがこの時期とは明らかに違うのだ。そういう意味では、『銀英伝』から作者がペンネームを改めたのは違うタイプの作家に脱皮するための儀式だったのかもしれない。
(2003年1月3日読了)