読書感想文


凶の戦士グラード
背徳のレクイエム
田中啓文著
集英社スーパーファンタジー文庫
1993年9月10日第1刷
定価437円

 第2回ファンタジーロマン大賞佳作入選作を改稿した、作者のデビュー作である。
 賞金稼ぎのグラートは、かつてはルキタス王国の王子であったが、彼の婚約者に横恋慕した雷神に刃向かったため、その呪いを受け国を滅ぼされただけではなく7日以内に人を殺して生気を吸いとらなければ死んでしまうという体にされてしまった。彼の恋人である賞金稼ぎのジュラも常にいっしょにいるのではなく彼が人を殺さないでいられる時にしか行動をともにしない。グラートは自分が生きるために賞金稼ぎをしているのだ。彼は国王が吸血樹の精にとりつかれ妃と別離し、それぞれが魔道師に依頼して〈闇〉と契約し互いの命を狙っているドランマクラにやってきた。国が乱れているところに戦いがあり、そこでならば人も殺せるからである。彼と道中で知り合った賞金稼ぎジグル、そしてジュラは王妃に雇われて王子の身辺を護衛することになるが……。
 ヤングアダルトのファンタジーとして書かれたはずであるが、人を殺さないと生きていかれない宿命の王子、己の快楽のために骨肉の荒そいをする王家など、中高生に対してはかなりショッキングな設定である。しかし、それを無視して読むと、この物語は非常に面白い。これでもかこれでもかと登場人物をどんどん不幸に追いこんでいく過程など、デビュー作にしてすでに作者が自分のスタイルを確立していたことがわかる(地口と汚物はここには出てこないが)。本書は現在絶版であるが、ぜひどこかで復刊すべきである。大人向けのSF、ファンタジーのレーベルであれば、ちゃんとした評価を得られるに違いないと思う。

(2003年1月4日読了)


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