関ヶ原の戦いの折に、逃亡した石田三成の行方を的中させた男がいた。大蔵大輔こと大久保長安である。彼は「燦星秘伝」という書に徳川・豊臣両家の命運を握る秘密を書きつけていた。真田幸村の命を受けた猿飛佐助は、大久保長安の館におもむき、その「燦星秘伝」の入った茶入を入手する。館には、柳生家の養女、柳生佐久夜姫も現れ、二つ揃いの茶入の一つを持ち帰る。そこには、和歌と地図らしきものが書かれていた。幸村、そして天海僧正はその謎を解こうとする。さらには幕府の中枢に入りこもうとする林羅山が以心崇伝の命を受けて忍者を操り「燦星秘伝」を狙っていた。豊臣家か、徳川家か、天下の行方を左右する秘密をめぐり、佐助、佐久夜姫、そして羅山たちが三つ巴の壮絶な戦いを繰り広げる。「燦星秘伝」の秘密とは何か、そして大久保長安の正体は……。
未完のまま中絶している「妖戦十勇士」の姉妹編ともいえる作品。山田風太郎を彷佛とさせる忍法、柳生新陰流の必殺剣、さらには時代伝奇小説おなじみの真言立川流の秘法と、立て続けに飛び出してくる妖術の数々、そし善悪入り乱れ息をもつがせぬ展開。まさにサービス精神旺盛な小説である。勝者と敗者は目まぐるしく入れ代わり、敵は味方に味方は敵にと予断を許さない。これこそ帯に書かれるように「血沸き肉躍る」物語である。
本書の奥に流れるものは、徹底した遊び心である。どうすれば読者が喜ぶか、そのことだけを考えて書かれた小説なのだ。人生の深みだの、生きる上の教訓など、そんなものは必要無いのである。それでも、物語の底流に人知を超えた「運命」というものの非情さ、人間関係というものの危うさを読み取ってしまう。そこらあたりに死線を越えた経験のある作者ならではの凄みを感じるのは私だけだろうか。もっとも、そんな御託は作者にとってはよけいなお世話だろうけれど。
(2003年1月10日読了)