読書感想文


立川文庫傑作選
宮本武蔵
野花散人著
角川ソフィア文庫
2002年12月25日第1刷
定価571円

 親本は明治44年刊行。読む講談として人気のあった「立川文庫」の復刊である。
 江戸幕府三代将軍家光の時代、大平の世に二刀流をもって剣豪の名をほしいままにした宮本武蔵。江戸の石川群東斎巌流のもとで剣法を修行し、二刀流をあみ出した武蔵だが、小倉藩の剣術指南役である父親の宮本無二斎が佐々木岸柳によって殺される。佐々木は剣術の試合で無二斎に敗れた腹いせに鉄砲で闇討ちにしたのである。復讐の旅に出た武蔵だが、佐々木の弟子によって蒸しぶろに閉じこめられたり、旅先で遭遇した化け猫を退治したりと様々な敵に出会う。そして、ついに豊前島で佐々木と対決をするが……。
 吉川英治の創造した武蔵像を構成の作家はいかにしてぶち破るか苦心したわけだが、それより先に刊行された本書の場合、史実も何も無視し、自由奔放に武蔵を暴れさせている。だいたい生きている時代がずれている。佐々木岸柳との対決は、加藤の殿様の午前試合である。
 これがなかなかおもしろい。内省的なところは一切なく、ただただあらわれる強敵をばったばったとなぎ倒すのみ。痛快である。矛盾点は山のようにあるが、そんなものどこ吹く風とばかりに暴れまくる。そのいいかげんさが楽しい。なるほど、立川文庫が一世を風靡したという理由がわかる。悪い奴は卑怯千万、窮地に追いこまれても決してやられず一気に逆襲して溜飲を下げる。
 傑作、とはいわない。しかし、私には求道者の武蔵よりもこういう無敵のヒーローである方が好ましく感じられるのだ。そして、吉川英治以降の武蔵がいかにその呪縛にとらわれているかということも痛感するのである。

(2003年1月12日読了)


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