大戦末期、南洋ガルダ島に取り残された第369海軍設営隊は、使命である飛行場建設も度重なる米軍機の攻撃によって完遂できなくなり、戦争が終わるまで生き延びることが目的という状況に陥った。隊長の永妻少佐は自活のために自給自足体制を作ろうとする。原住民の所在したらしい跡も発見されるが、その原住民はどこかに消えてしまっている。陸軍第5海洋師団がガルダ島に漂着し、本部との通信が可能となったが、新たな指令は地下要塞を設営するというものであった。設営のために穴を掘ったら、その穴の先には鳥ともトカゲともつかぬ生き物が住む世界が待っていた。さらに太古の恐竜も現れ、海軍設営隊は食料確保のために狩竜隊を結成するが……。
林譲治版の「ロスト・ワールド」は、その古代の世界の存在する理由にハードSFのアイデアを使い、さらには生態系などにも格別の注意をはらっている。だからこそ、恐竜と日本軍の対決という設定が生きてくる。しかも、本書はただ古代世界に人間が迷いこんだというだけにとどまらず、二重三重に予想を裏切る展開を用意し、SFならではという結末が読者を待っている。
うまいのは、若いサイエンス・ライターが当時の生き残りの軍医に事の真相をたずねるという形をとっているということ。読者がわかりにくいであろうと思われる科学知識やSF的なアイデアに関しては、そのサイエンスライターが質問するということでわかりやすく解説している。
ここまで用意周到にやるところが作者らしいと思う。アイデアの大胆さもしかり。ただ、これだけきっちりと書きこんでいるために、破天荒なものであってもその大胆さが伝わりにくいうらみはある。もっとも、秘境小説にここまでの論理的整合性は求めなくてもよいとは思うのだけれど。ここまでやってしまうところが作者の持ち味ではあるのだが。
(2003年1月13日読了)