関ヶ原の戦いに西軍の雑兵として参加した作州牢人の新免武蔵と本位田又八の二人だったが、戦に敗れ、落武者狩りを逃れる身の上。野武士に襲われるお甲と朱実親子を助け、その首領である辻風典馬を倒し、又八はお甲に誘惑されて旅をともにする。彼らと別れた武蔵はその様子を又八の母、お杉に知らせるために帰郷するが、逆恨みにあい、西軍に荷担したというだけで池田家の代官、青木丹左衛門に命を狙われる。彼の命を救ったのは若い高僧、沢庵。村の千年杉に吊り上げられた武蔵を救って一緒に逃げようとするのは又八の許嫁、お通。逃げた二人をお杉は仇と追う。武蔵は沢庵和尚に連れられて、領主池田輝政より宮本武蔵のなをもらい、剣術修業の旅に出る。愛するお通とも別れ、目指すは京都。そこには吉岡一門の総帥、清十郎がいる。池田家を放逐された虚無僧となった青木丹左の一子、城太郎を一番弟子とした武蔵は、武芸の教えを請うために槍の名門宝蔵院に足を向けたが……。
野性児武蔵の、放浪の旅のはじまりが、テンポよく進む。主要な登場人物はこの巻でたいてい勢揃い。ただしゃにむに強くなろうとする者、欲望に負けて堕落の道を歩む者、虎の威を借る狐、名門に生まれたがために自らを鍛えることをおろそかにする御曹子、無邪気だが気の強い少年、愛する男に自分の全てを賭けようとする女、主人公につきまとい邪魔ばかりする老婆。人物像はいささかステロタイプながら、娯楽作品としてはみごとに配置された人物造形である。本巻ではまだ大衆娯楽小説の色が強く、ぐぐっとひきつける力強さを感じる。このまま最後までいってくれればよいのであるが。
(2003年1月13日読了)