宮本武蔵の真の姿を史料から探り出し、兵法家としての虚像と、大名などからはそれほどにも扱われなかった実像を対比させた「真説宮本武蔵」、その武蔵に滅ぼされたことになっている吉岡一門の実像をさぐる「京の剣客」、合理的な指導法で幕末に盛名をはせた「千葉周作」、幕末に「おだやかさま」と呼ばれた剣法指南が実は激しい気性の持ち主で、それゆえ死場所を求めるように会津へ旅立つ「上総の剣客」、大坂ノ陣で落ち延びた牢人が一本の刀をめぐって運命を狂わせていく「越後の刀」、日本人はバスク人の同類だと信じてポルトガルからやってきた男の滑稽だがどこかもの悲しい最期を描いた「奇妙な剣客」の6編を収録した短編集。
いずれも、剣の道を頼りに生きた男たちの物語である。作者はどちらかというと、こういった技能者の技能そのものよりも技能というものをどのように生かせたか、あるいは生かせなかったかを描きたかったのだろうと思われる。だから、宮本武蔵の彼が望んだ高禄による仕官を果たせず、養子伊織によって誇大に広告された虚像が伝わるのみという生き方に対してややもすれば冷ややかであるし、逆に吉岡一門の(武蔵に倒されたはずの)当主が晩年に辻斬りを扇子一本であしらった逸話を挿入したりもするのである。ここらあたり、名よりも実を取る大阪人気質というものが現れているのかもしれない。
そして、千葉周作のように合理性があり商売として自分の技術を成功させた人物に対しては賛美を惜しまない。いかにも作者らしい「兵法家」に対する姿勢である。
(2003年2月8日読了)