新シリーズの開幕。
新大陸調査隊の二等研究員リヒト・オルベが先住民の残した設備から「精霊」を感じとり、その力を共有することにより高度なネットワークで結ばれた都市〈ライブラ〉が誕生した。それから46年後、都市は階層化され、最下層では頽廃的な若者たちが町にあふれていた。「精霊」を操り〈ライブラ〉のネットワークに侵入できるカイ、自動車のマニュアル運転に抜群の腕を持つジュラ、銃の名手サキの3人は、警察では手のまわらない仕事などを引き受ける「代行屋」オフィス・サンズを開業し、たくましく生きている。美人ストリップダンサーとその追っかけをしていた男が怪死を遂げた事件の操作を手伝うことになり、市警の純情な刑事ルークとともにその謎を追う。死んだ男、ミオ・コーナンは浮き世離れした青年で、ダンサーの追っかけをしていたとは思われなかったが、麻薬の売人という顔が捜査線上に現れてきた。ミオの妻、シリーに惚れたルークが彼女のもとを訪れた時、謎の男たちが彼女の家を襲撃する。ミオが扱っていた麻薬の正体は、そして殺人の真犯人は……。
「精霊」という意志を持つものによって都市ネットワークが保たれているというアイデアがユニーク。人間たちはネットワークを利用しているように見えて、実はその本質を全く理解していない。これは、われわれが機械の構造を理解しなくてもそれを使用できるけれど、逆にその機械にふりまわされてしまうということに対する風刺になっているのだろう。麻薬の正体もまた、ちょっとした文明批判となっている。作者はその風刺や批判を全面に押し出すのではなく、若者たちのエネルギッシュなアクション小説として軽やかに物語を進めていく。そして読者には「愛」というものの現れ方を考えさせるような作りになっている。SFとして読んだ場合は設定に甘さも見られ必ずしも満足できるわけではないが、この軽やかさとテーマの重さの配分がここではバランスよく書かれているように思う。楽しいSF風ファンタジーの開幕である。
(2003年2月21日読了)