読書感想文


秘伝・宮本武蔵 上
光瀬龍著
徳間文庫
1982年7月15日第1刷
定価460円

 大坂の陣が終わり、豊臣家は滅亡。しかし、真田幸村の残党は松平忠輝の娘、おしのをかくまうなどして、反徳川秀忠の布陣を張ろうとしていた。作州浪人、宮本武蔵は、江戸へ向かう武者修業の旅路でおしのを助けたことから、否応なくこの争いに巻きこまれていく。また、武蔵が京都で吉岡一門といさかいを起こした時に、それが都を惑わしてはいけないと心配した所司代板倉勝重は、剣客佐々木小次郎に武蔵を倒して騒動を未然に防ぐことを依頼する。武蔵を討ち果たしそこねた小次郎は、江戸まで追いかけてくる。時代の波に翻弄される武蔵の運命は……。
 20年ぶりに再読。真田の残党、柳生一族、服部半蔵等が裏の世界で暗躍する中で、一人の兵法者がその剣の腕だけではどうしようもない世界を知るという、異色の「宮本武蔵小説」である。たいていの武蔵小説が主人公である武蔵の足跡を追いながら物語を進めていくのに対し、作者はまず武蔵の生きる時代の裏の社会という設定を形作り、そこに武蔵をあてはめていく。これこそが茫漠たる宇宙を舞台に設定し、そこに生きるちっぽけな人間の姿を描いてきたSF作家光瀬龍の真骨頂なのである。つまり、SF小説の書き方で時代小説を書いているのだ。ここから、SFというものの本質が見えてくるのが興味深い。
 かつて読んだはずだが、物語をすっかり忘れているのと、ここしばらくいくつか武蔵小説を読んできたのとで、かなり新鮮な思いでこの物語を楽しむことができている。

(2003年2月25日読了)


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