読書感想文


剣鬼 宮本武蔵
早乙女貢著
新人物往来社
2002年9月30日第1刷
定価1800円

 13歳で兵法者有馬喜兵衛を倒した新免弁之助は、喜兵衛の弟子たちから命を狙われる。彼を助けたのは、父のもとに出入りしていた画家狩野三徳。口ばかり達者な画家の弟子のふりをして逃げていた弁之助だが、喜兵衛の弟子に見つかり、再び逃走。流浪の旅に出会ったのは、刀を捨て絵筆に持ち替えた武士、海北友松であった。友松の絵に惹かれてともに旅をする弁之助。その画才を認めた友松に画家の弟子となることを勧められる弁之助だったが、彼は兵法者の道を選ぶ。荒れ城となっていた備中松山城で主家再興を願っていた舞ノ弥介のもとで、弁之助は徹底的に剣を鍛えられる。名も宮本武蔵と改め、弥介の死とともに山をおりる。京流吉岡一門を倒し、剣の道を突き進むほどに、武蔵は仇を討とうとする者たちから命を狙われる。武蔵が心を落ち着けることができるのは、絵筆を持つ時だけであった。
 画家としての才に評価の高かった宮本武蔵は、いつ、どこで絵を学んだのか。本書では、海北友松という元武士の画人と少年時代の武蔵を遭遇させることでその答えを出してみている。若き日の武蔵を描いた作品は多いが、画家の素養が修業の中で磨かれたことをここまで強調したものは他になく、異色の武蔵小説といえるだろう。剣の鬼となることによりさらに画才がとぎすまされるなど、常に画人武蔵を意識した展開である。
 本書では、あの佐々木小次郎との決闘が描かれない。それどころか、武蔵が剣豪として本当に強かったのかという疑義まで提示している。ここらあたり、定評に対して常に反骨の姿勢をとる作者らしいところであろう。

(2003年3月2日読了)


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