書下ろしアンソロジーに収録されたものや雑誌に掲載されたものを集め、表題作を書き加えた短編集。
発信人不明の電話が男たちに「ヒトゴロシ」と語りかけ、彼らの過去をあばいていく「ファントム・ケーブル」。アダルトビデオのカメラマンがロケ現場で遭遇した恐怖を描く「ドキュメント・ロード」。いじめの被害にあっている少女の復讐を助ける謎の消防士が登場する「ファイヤーマン」。クラスから孤立している少女の持つ自宅の恐るべき秘密と彼女に接する者たちの悲劇が描かれる「怪物癖」。試薬の被験体のアルバイトをする男に降り掛かる悪夢「スキンダンスの階梯」。ピッキングの名人が依頼された鍵を開けたところに隠されていたものは何か「幻影錠」。平凡な会社員を襲う嫌がらせとそのエスカレートする様が克明に描写される「ヨブ式」。自分の子どもを殺してしまった男を救うものとは何か「死せるイサクを糧として」。
いずれもごく普通の生活を送っていたはずの者たちが徹底的にひどい目にあわされる。そして、それには理由らしきものがない。強いていえば、現状を打開しようという気概のない、日常をただむさぼる者が、その日常に復讐されると解釈すべきか。いや、それはもう理不尽なまでに理由もなく悲劇は訪れる。ここらあたりに作者の持つ日常への危機感みたいなものが隠されているように思う。
発表媒体がばらばらで枚数に制約があったためか、登場人物がただひどい目にあうだけに終わっているものもあり、作品集全体としてはいくぶん物足りない気もする。日常生活が知らぬ間に何ものかに侵食され、悲劇が一気に訪れるというもっていき方ができず、いきなり悲劇や惨劇から物語が始まってしまったりするからだ。
私の気に入ったのは、日常世界を少女の内宇宙が侵食していく「怪物癖」、全く理不尽に主人公がひどい目にあい、狂的にエスカレートしていく「ヨブ式」あたり。それにしても、本書ではいじめや嫌がらせにあう主人公を描いたものが目立った。作者と一般的な社会との関係を暗喩したものなのではないかという気がする。
(2003年3月23日読了)