全7編からなる短編集。
「廃材屋敷」と呼ばれる家には何者かが住み着いていた。それは姑の意識と同調し、家を出ようとする嫁の命を狙うが……(「家に棲むもの」)。つきあっていた肉食女性、結婚した菜食女性の異常なまでの食性へのこだわりに翻弄された男は……(「食性」)。女性の裸体死体に関する5人の人物の告白から導き出される意外な真相とは……(「五人目の告白」)。食用家畜の遺伝子操作を行っていった研究者が行き着いた先には……(「肉」)。森の外れに行こうとした少女を襲う若者、彼女の家族の正体は……(「森の中の少女」)。少年時代の日記を見つけた男は、読み返していくうちに初めて接した女性との記憶を呼び返される。日記に隠されていた謎とは……(「魔女の家」)。孫娘に自分の描いた絵の説明をする老婆。絵から浮かび上がる老婆の生涯は……(「お祖父ちゃんの絵」)。
日常生活を描きながら、その日常は我々の考える日常とはどこか座標軸の違う世界。情け容赦なく突きつけられる非情な結末。いずれも作者の特性をよく示した作品集である。「食性」では食物連鎖そのもののもつ非情さが強調され、「魔女の家」や「お祖父ちゃんの絵」では人間の記憶と妄想が紙一重であるという指摘が、表題作「家に棲むもの」では日常ならざるものを受け入れていく心性の狂いが、それぞれ我々の前に突きつけられる。
本書にはミステリ的なアイデア・ストーリーも含まれ、作者の理論家としての一面も強調されている。なんとなく味つけが薄いなあと思って初出を確認したら、一般の小説誌で発表されたものであったりするあたりが憎いではないか。
(2003年4月12日読了)