昭和16年の9月、不可解なラジオ放送が各地で受信された。日本が真珠湾を奇襲攻撃したというのである。その放送で発表された日付は12月8日。3ヶ月先の作戦が全世界に知らされた。対米開戦は事実上不可能になる。さらにドイツがモスクワで敗退することもその放送では知らされていた。欧州戦線も混乱の様相を示す中で、ドイツの潜水艦がアメリカの旅客船を攻撃し、ルーズベルト米大統領は対独戦の開戦を決定する。三国同盟があるため、日本はやむなくアメリカとの戦争に参加しなくてはならない。連合艦隊司令長官の山本五十六が提案した突拍子もない奇襲作戦とは……。
未来のラジオ放送が受信されたために歴史が改変されるという設定である。本巻では、まだ歴史改変の部分に重点が置かれ、宇宙線の量が上昇した理由や、それが地球全体におよぼす影響にまでは言及されていない。歴史改変とハードSF的な設定の接点が明らかになった時に、どのような展開が示されるのかに期待をしたい。
ところで、作者はここではっきりとルーズベルト大統領やその周辺を現在のジョージ・W・ブッシュ大統領とシンクロさせている。架空戦記という手段で侵略戦争の論理に対する批判を行っているのである。遊びであることをわからせるために、作者はかなりあからさまにそれを示しているが、そこには現状に対する批判と同時に、アメリカという国の本質に対する批判にもなっているといえるだろう。むろん、そこには日本に対する批判も含まれていることはいうまでもない。
(2003年4月16日読了)